Myriel

 戦争がつくる女性像


【 書  名 】戦争がつくる女性像
【 著 者 】若桑みどり
【出 版 社】筑摩書房
【発 行 年】1995年9月20日
【 価 格 】2200円
【  ISBN  】4-480-85716-8
【KeyWords】美術史、マス・メディア、母性

【 内 容 】(目次)

 まえがき

 序章 前提 戦争・女性・イメージ

 第一章 日本の戦時体制と女性の役割

 I 戦時下の母性政策
 II 非戦闘員としての女性が戦時に担う一般的役割
 III チアリーダー 「戦争援護」集団としての女性の動員

 第二章 戦時下の婦人雑誌にみる女性イメージ

 I 一般戦争画と婦人雑誌の挿絵との差異について
 II いくつかの国策婦人雑誌の記事と視覚ページの特質
 III 「主婦之友」の記事の特質とそのイメージ
 IV まとめ――象徴としての女性像

 結び

 あとがき

 年表(昭和元〜20年)

【コメント】

 戦争画の研究というのはあるようですし、戦時中の婦人雑誌の研究というのも
あります(『婦人雑誌からみた一九三〇年代』同時代社)。しかし、美術史家が
婦人雑誌の表紙・口絵・挿絵等をとりあげたものとしては初めての研究と言える
でしょう。
 若桑さんはまた別な意味で最近注目していたのですが、本書の出版は大きな衝
撃でした。この本は2時間ほどで一気に読み上げてしまいました。
 本書では、まず前半で、欧米の研究も参照されながら、戦争と女性の関係が読
み説かれていきます。戦争=男のもの、平和・慰安=女性のものというイメージ
動員は、戦争に反対する側がしばしば用いるレトリックですが、これは実は戦争
を推進する側の論理でもあります。「母」のイメージ動員が戦争を推進するため
に、しかも執拗に行われていったことが、豊富な資料から明らかにされていくの
が第二章です。
 「母」は、「産み育てる」もの・「癒す」ものであると同時に、「チアリーダ
ー」としても機能していたということもまた重要な指摘でしょう。近年、第二次
世界大戦中の女性の戦争協力についての研究がかなり出てきていますが、それが
芸術画ではなく大衆が家庭内で目にすることのできる雑誌の表紙画・挿絵を通し
てどのように視覚イメージとして流通していたかがわかります。「母」は兵士を
「行きなさい!」と送り出し、傷ついて戻ってくれば彼を癒し、そしてまた送り
出すという残酷さをも持つのですが、その厳しさも、女性が「国に仕える」あり
かたとして肯定的に描かれるのですね。
 時局が逼迫してくると、「慈愛に満ちた母」のイメージよりも、総力戦のもう
一つの前線である産業に従事する女性のイメージが増加してくるようになるよう
です。その時の女性の表情もずいぶんと硬いものになり、「戦い」の中にいるの
だということが表わされるようになります。
 母性というのは、クリステヴァなどの指摘にもありますが、必ずしも「産み・
育て・癒す」ものではありません。「産む」ということそのものが、そもそも秩
序に新たなものを送り込むことであり、秩序の攪乱の契機でもあるわけですが、
ここでは母性はそういった危険な側面をすべて切り落とされて、有効に秩序維持
とその力の強化に貢献するようにさせられている、そのための動員の手段の豊富
さ・執拗さがよくわかる一冊です。

(1995/10/09)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)