Myriel

 都市空間とセクシャリティ


【 書  名 】小木新造編著、『江戸東京学への招待 [1] 文化誌篇』に収録
【 著 者 】上野千鶴子
【出 版 社】日本放送出版協会(NHKブックス)
【発 行 年】1995年11月20日
【 価 格 】1100円
【  ISBN  】4-14-001750-3
【KeyWords】都市、住まい、セクシャリティ

【 内 容 】

(1) 江戸期のセクシャリティ:遊郭・農村
 江戸期のセクシャリティが、都市空間の中でどのような位置に置かれていたの
か、というと、それは「境界」にあった。たとえば、吉原という堀で隔てた向こ
う側の土地、船宿、娼婦(遊女)が登場する場面は、このようなところ。また、
春画に描かれている場面も、縁側や軒下など、家屋構造上の周辺であることが多
い。
 他方、農村のセクシャリティはどうであったのか。農村では、プライバシーは
ほとんど存在しない。だれがどこで寝ているか(この場合、特に女性)は明白で
あった。「夜這い」の習俗が成立したのもそのためである。「夜這い」は、決し
て自由な恋愛ではない。それは農村共同体の下位共同体である若者集団によるセ
クシャリティのコントロール下での性愛行動である。

(2) 近代の都市空間と性
 近現代の住居は、核家族を想定して設計されている。公団住宅に典型的に見ら
れる集合住宅は、家族の成員数をn人として、(n−1)DKもしくは(n−1)
LDKを理想として作られている。
 この時、n−1は、夫婦を一組として、暗黙の内にそこにセクシャリティの存
在を前提として考えているからだ。したがって、(n−1)LDKの中で一番大
きい部屋が、「二人分」の寝室として夫婦に割り当てられる。
 あるいは、妻の居場所は家全体であると考えることもできる。夫用の「書斎」
を、とすすめる住宅プランニングや雑誌記事はあっても、主婦の個室を、と唄う
女性雑誌は存在しなかった。主婦の居場所は、第一に台所であり、そして家全体
なのだが、それは女性が家事をする、そして家のことに第一の責任を持つという
性別役割分担の規範に支えられた設計なのだ。

(3) 性と住まいのポストモダン
 家族が家族ではなくなり、個人の集合としての「個族」としての性格を強めつ
つある今、カップルのセクシャリティのための場を住宅に設計しようという発想
が消滅しつつある。住宅のポストモダンは、一人のための機能を備えた個室群と
コモンスペース(ダイニングキッチン、風呂場、トイレ、など)の組み合わせと
して構想されるようになっている。
 このようなプランは、単に「個族」としての家族のためのものではなく、死別
・離別などでカップルが崩壊した高齢者同士や、同性愛カップルなどにも適合的
なものなのではないだろうか。

【コメント】
 シングル生活と住宅構造については、この前知人とやりとりしてから考えてい
た問題です。
 個のスペースを確保しつつ、コモンスペースを持つにはどうしたらよいか。現
在のアパートなどは、自律・孤立した個人・家族がそこに住むことを前提として
おり、コモンスペースという発想がそもそも不在です。したがって、コモンスペ
ースを持ちたいならば、別な場所に求めるか(共同でもう一部屋借りる)、家屋
構造自体を変えなければならないということになります。
 LATカップルなどにとっては、上記(3)のところでとりあげられているような住
宅が一つの理想の住まいになるかもしれません。

(1995/12/12)



This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)