Myriel

 女性を捏造した男たち


【 書  名 】女性を捏造した男たち ――ヴィクトリア朝時代の性差の科学
【 著 者 】シンシア・ラセット 訳・上野直子
【出 版 社】工作舎
【発 行 年】1994年5月20日
【 価 格 】3296円
【  ISBN  】4-87502-234-4
【KeyWords】性差、進化論、歴史

【 内 容 】
【コメント】

 副題の通り、ヴィクトリア朝時代のアメリカ・ヨーロッパにおける「性差の科
学(sexual science)」の歴史を描いた本です。
 本の内容を最も簡潔にまとめるなら、思想史の方法を用いた、〈女性〉のイメ
ージが、19世紀の後半に主に生物学的な側面から形作られ、〈進化〉の階梯の中
に位置付けられ、そして内部崩壊していくプロセスの詳細な紹介、ということに
なるでしょうか。
 女性の身体が示す発育不全・幼児形などから、「女は未熟な男である」という
かたちで、女性に対する男性の優位が主張された時代があったのです。(それは、
単にジェンダーのみならず、階級や人種・民族の問題と複雑に絡まりあったもの
でもあったのですが。)当時の最先端の自然科学が、さまざまな公的領域からの
女性の排除や、「女の役割は第一に母親であることであり、女の場所は第一に家
庭である」ことの正当化の理由として用いられていたということです。
 現在の科学の水準からすると、当時の議論の中で用いられた理由付けのほとん
どは噴飯ものだと言えるのですが、では、現在のわたしたち自身は本当にこうし
た発想を捨て去ったと言えるかというと、はっきり言い切ってしまうのがためら
われることがしばしばあります。「進化論的な発想というのは、その科学的な妥
当性が少々ゆらいだからといって、簡単に消え去るものではないのだ、ダーウィ
ン的な進化論という大きな物語は決して効力を失ってはいないのである。という
か、ひとつの言説として今日でも我々の行動を強烈に貫いているのだ。」(富山
太佳夫による「解題」より)
 科学の言説を用いる女性への「バックラッシュ」が実にたくさんあることを示
したのは、スーザン・ファルーディの『バックラッシュ』でした。だとするなら
ば、ラセットのこの本の内容を、わたしたちは遠い時代の話として読むことはで
きない、ということになるでしょう。

(1996/06/11)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)