Myriel

 女神の誓い


【 書  名 】女神の誓い
【 著 者 】マーセデス・ラッキー 訳・山口みどり
【出 版 社】創元推理文庫
【発 行 年】1995年11月17日
【 価 格 】830円
【  ISBN  】4-488-57701-6
【KeyWords】ファンタジー、アマゾン

【 内 容 】
 「山賊への復讐と、皆殺しにされた一族の再建を誓い、ひとり故郷を旅立った
女戦士タルマ。道すがら、女魔法使いに出くわした。『わたしはケスリー。あな
たの復讐を手助けしたいの』彼女の持つ不思議な剣がタルマを呼んだのだという
が‥‥? とびきり元気な女剣士と女魔法使い、傭兵になったふたりの行く手に
待ち受けるものは? 現代アメリカ異世界ファンタジーの女王登場!」(裏表紙
の紹介文より)

【コメント】
 ‥‥という紹介を書き写していると、何やら違和感があります。何といっても、
わざわざ「女剣士」とか「女魔法使い」というように、「女××」と書かなけれ
ばならないことが、そもそも「女でない剣士」あるいは「女でない魔法使い」が
横行していたことの証しであり、そうした状況に対する対抗運動として、女性を
重要な登場人物として描く潮流が欧米でフェミニズムの影響を受けて興ってきた
のですから。
 それはともかく、M.ラッキーの「ヴァルデマール年代記」もこうした運動の
中から生まれてきたシリーズで、この本に収録されている「剣の誓い」も、マリ
オン・ジマー・ブラッドリ編の『Sword and Sorceress III』に最初収録された
短編です。

 以前、ジェンダーのユートピア・ディストピアは空間的な〈外〉――遠い宇宙
のはてに設定されていました。ル・グィンの『闇の左手』、あるいはブラッドリ
の「ダーコーヴァ年代記」のように。アン・マキャフリィの「パーンの竜騎士」
も異星世界が舞台でした。
 それが、80年代以降のファンタジー・ブームの中で、ジェンダーとセクシャリ
ティのオルタナティブを描くのに、彼女たちはこぞって「内なる外」としての歴
史、キリスト教以前のヨーロッパ世界や、あるいは近代以前の物質的・社会的環
境を備えた異界の地を舞台とするようになりました。ブラッドリの『アヴァロン
の霧』はケルトの女神信仰と父権的キリスト教とのぶつかりあいと融合の物語だ
し、あまりジェンダーの側面は強調されないけど、でもさりげなく注意して書か
れているバーバラ・ハンブリーの「ダールワス・サーガ」もきわめて中世的な世
界を舞台としていました。ジーン・アウルの「大地の子ら」シリーズ(『大地の
子エイラ』ほか)にいたっては先史時代でしたね。とはいえ、これも大地女神信
仰が基盤の世界を描いているという点では、ケルト的世界観に包まれているとも
いえるかも知れません。
 その世界観の基盤になっている女神は、単に「産み、慈しむ」母としての女性
の役割をメタファーとして写し取ったものであるだけではなくて、ケルトのモリ
ガンのようなネガティブなイメージをも反映しています。ブラッドリやラッキー
の物語の中では、大地女神よりも「月の女神」――満ちては欠け、恵み多き存在
にも、冷たく奪う存在にもなる、くりかえす時を刻む月のイメージで語られます。
 したがって、近代と共に、聖化された女性のイメージ(つまり、「家庭の天使」
としての。それは、もちろん階級的な要素も内に含んでいるのですが)だけが強
調されてきたことに対するオルタナティブとしての「対抗的ジェンダー」を描い
たものが、たとえばラッキーのこの物語であると言えるでしょう。

 では、果たして〈男〉である書き手は、ジェンダーの問題をどう描いているの
だろうか? というと、たとえばD・エディングズなどを読んでいると、「あー
あ(^^;)」な気分になったりもします。ムアコックもやはり男は男だなー、『ギ
ャラソームの戦士』以外は。といっても、これも男の魂が女性に乗り移る話です
が。
 日本でもファンタジーの層は厚くなってきていますが、ジェンダーやセクシャ
リティの側面での思考の冒険はほとんど見られないような気がします。

(1996/06/11)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)