Myriel

 ジェンダー城の虜


【 書  名 】ジェンダー城の虜
【 著 者 】松尾由美
【出 版 社】早川書房(ハヤカワ文庫JA)
【発 行 年】1996年8月15日
【 価 格 】520円
【  ISBN  】4-15-030562-5
【KeyWords】ジェンダーフリー、ミステリー

【 内 容 】
 「入居資格は伝統的家族制度に挑戦する家族であること」友朗がすむ地園田団
地は、設立者の大富豪の意向で、主夫のいる逆転家族や血縁のない契約家族、同
性愛カップルなどが住む実験団地だった。そんな風変わりな場所に今度引っ越し
てきたのが小田島博士一家。しかし博士は到着早々何者かに誘拐されてしまった!
友朗と団地住民たちは、博士の娘の美宇を助けて真相解明に乗り出すのだが……
不思議な街のユーモアミステリ。(裏表紙から)

【コメント】
 小説、それもミステリ仕立ての作品なので、内容について細かく触れるとネタ
ばれになっちゃうので、それは差し控えます。
 作者の前作、『バルーン・タウンの殺人』(ハヤカワ文庫JA収録)も読んだ
のですが、フェミニズム、ジェンダー・スタディーズの知識・発想をふんだんに
取り入れ、さまざまな仕掛けを作品内に備えた興味深いものでした。特に、人工
子宮が普及して、女性たちが妊娠・出産をしなくなった社会で、「妊婦文化」を
継承していくバルーン・タウンというのは、これは面白い発想だと思います。解
説を富山太佳夫さん(英文学)が書いていたのも、注目すべきことかも。たぶん、
作者は富山さんのお茶の水女子大学時代のゼミの学生だったのでしょう。
 この作品でも、地園田(じえんだ)団地という、支配的なジェンダー関係を越
境する家族の日常生活の空間を舞台に、クロス・ドレッシング(いわゆる異性装)、
ホモセクシャル・カップル、契約家族などの小道具をうまく使って、「センス・
オブ・ワンダー」を作り出しています。おそらく、このあたりが「SFとミステ
リの両ジャンルを横断した作品」と言われるところでしょう。SFも、技術に関
するセンス・オブ・ワンダーはお得意ですが、ミクロな人間関係、たとえば親子
関係、家族関係、男女関係などでの興味深い思考実験をしている作品というのは
あまりなかったりします。「ソーシャル・サイエンス・フィクション」みたいな
ところもあるかも知れませんね。
 仕掛け、について、一言。固有名詞に注目してみてください。もちろん、団地
の名前は「ジェンダー」からとっていますが、そのほかにもいろいろあります。
作者も作品中で種明かしをしていたりするものもありますが、その前にネタを発
見するのもまた面白いかもしれません。(校長の名前は、きっと何かあるなと思
ったけど、結局わからないままに種明かしされてしまった。)最後まで読み切っ
たら、タイトルの意味もわかると思います。直接はもちろん、「ゼンダ城の虜」
のパロディなわけですが。

(1996/08/13)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)