Myriel

 女の仕事


【 書  名 】女の仕事 〜織物から見た古代の生活文化
【 著 者 】エリザベス・W・バーバー  中島健訳
【出 版 社】青土社
【発 行 年】1996年7月15日
【 価 格 】3400円
【  ISBN  】4-7917-5467-0
【KeyWords】考古学、労働、神話学

【 内 容 】
【コメント】
 先史時代から古典古代にいたるまでのヨーロッパ・中近東を中心とした地域の
紡績・織布は、いったい誰が、何を素材として、どのようにしておこなっていた
のか? 糸や布は何千年とはもたない。何もないところからどのようにして解答
を得られるのだろう?
 この、一種のパズルにも似た作業に取り組むのがこの本。著者のバーバーは考
古学者ですが、言語学、神話学、自然科学を援用し、さらに実験まで取り入れて
問題に取り組んでいます。
 その作業の中から明らかになってくるのは、先史・古代世界において、糸紡ぎ
・織物は基本的に「女の仕事」であったということ。そして、生活が非常に苦し
く、作業に手間もかかった時代に、逆に驚くほどの労力をかけて手の込んだ作品
を彼女たちが作り上げていたということです(生活文化論では、これを「生命と
文化の逆転現象」と呼びます)。衣服は、生活のためには欠かせないものですが、
それにもまして象徴的意味と装飾的意味、そして「芸術作品」としての意味を持
っていたのかもしれません。
 バーバーの作業は、さらにさまざまな神話や文学、その他の芸術作品に登場す
る女性の姿が、いかに「紡ぎ」、「織る」という作業と密接に結びついたもので
あるかを読み解くという方向へと向かいます。ミロのヴィーナス像、失われた両
腕はいったいなにをしているのだろう? あれは、ずれ落ちて上半身から下半身
までもむきだしになってしまいそうになっている衣服をとめようとしている恥じ
らいのこもったポーズ? それはいかにも当時の「女の仕事」のあり方を理解し
ない解釈かもしれない。愛と生殖をつかさどるアフロディーテ(ヴィーナス)の
あのポーズは、左手に高く紡錘をかかげ、右手で垂れ下がる糸を引っ張るという
糸紡ぎの作業のポーズなのだということを、腕の残っている部分の筋肉の動きか
らバーバーは明らかにしていきます。新しい生命を引き出す作業は、もやもやし
た繊維の集まりから糸を引き出す作業と同じことだというメタファー。
 近代の紡績工場や力織機を使った織物工場でも、やはり主な労働力は女性でし
たが、彼女たちの仕事は伝統的な「紡ぐ」「織る」という作業の象徴的意味を失
っています。それは、ひょっとしたら工場労働が子どもを産み、育てるというこ
とと両立しなかったことと何か関係があるのかもしれません。

(1996/08/31)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)