Myriel

 ヴァーチャル・ガール


【 書  名 】ヴァーチャル・ガール
【 著 者 】エイミー・トムスン   訳:田中一江
【出 版 社】早川書房(ハヤカワ文庫・SF1079)
【発 行 年】1994年10月15日
【 価 格 】680円
【  ISBN  】4-15-011079-4
【KeyWords】アイデンティティ、セックス中心主義、SF

【 内 容 】
 「金色がかった栗色の髪に、左右色違いの大きな瞳が印象的な美少女マギー。
彼女はコンピュータの天才アーノルドが自らの伴侶にしようと作りあげたロボッ
トだった。人間と変わらぬ優しい心を持つマギーだが、人工知能の開発が禁じら
れている今、正体がばれれば即座に破壊されてしまう。かくして二人は追跡の手
を逃れ、波乱に満ちた放浪の旅に出た‥‥純真なロボット少女の成長と冒険を描
く、スリリングで心あたたまる物語!」(裏表紙の作品紹介より)

【コメント】
 ピュグマリオン(ギリシア神話)もそうですが、これもまた「男が女を作る」
という設定になっています。
 ただ、ひと味違うのは、マギーの場合、途中さまざまな経験を経て、創造主の
アーノルドに対立するようになるということです。ピュグマリオンの場合は、理
想の伴侶として作った象牙の少女を妻にしてしまうわけですが、マギーは途中で
アーノルドの意図した理想からはどんどん離れていくことになります。
 そのあたりは本編を読んでいただくこととして。ここでは、作中でどのように
「セックス」が位置づけられているかに焦点を合わせることにしましょう。
 アーノルドは自分の作品を完璧にするために、マギーにも完全な女性器を付け
ますが、実は彼自身はセックスには臆病。また、マギーを「純真」なままで留め
ておきたいと願うがために、彼女がセックスに持つ関心にいい顔をしません。人
間についていろいろと知ろうとするマギーは、映画や小説などからも人間の行動
パターンを知ろうとします。その中ではどうも「愛」が人間の行動の核になって
いるのではないかということがわかり、アーノルドにいろいろと質問をするので
すが、彼は不機嫌になったり、話をそらしたりと、答えようとしません。
 アーノルドとはぐれてしまってからマギーはセックスを体験しますが、彼女の
感想は「どうやってもおたがいにこれ以上は近づけないのだとしたら、たしかに
人間はとても孤独にちがいない。」(p.294)「わたしは、セックスって考えて
いたほど大したものじゃないと思うけど。」(p.405)
 人間のさまざまな芸術作品の中で扱われている主題としてのセックスの比重の
重さと対照的なマギーの感想。両者のギャップから人間の「セックス中心主義」
が浮き彫りになってくるかのようです。
 この物語では上にあげたほかにもあといくつかのキーワードがあります。たと
えば、ホームレス。あるいは、マイノリティ。ストーリー・テリングの面白さも
さることながら、ホームレスのサバイバル・テクニックの描写にも特筆すべきも
のがあるでしょう。

(1997/01/02)



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