Myriel

 DNA伝説


【 書  名 】DNA伝説 〜文化のイコンとしての遺伝子
【 著 者 】ドロシー・ネルキン&M・スーザン・リンディ 訳:工藤政司
【出 版 社】紀伊國屋書店
【発 行 年】1997年2月28日
【 価 格 】2400円
【  ISBN  】4-314-00787-7
【KeyWords】マス・メディア 優生学 公共政策

【 内 容 】

 まえがき

 第一章 遺伝子の力
 第二章 優生学的遺伝子
 第三章 聖なるDNA
 第四章 分子家族
 第五章 プレスリーのDNA
 第六章 生まれつきの差異を創る
 第七章 赦罪――責任と罪の所在
 第八章 遺伝子本質主義の適用
 第九章 遺伝子未来主義
 第十章 超遺伝子

 訳者あとがき

【コメント】

 これは生物学の本ではありません。タイトルに「伝説」とあるように、「DN
Aという存在が現在文化(主にマス・メディア)の中でどのように取り扱われて
いるか」、つまり生物学の文化的表象・イメージがどのようなものであるかを探
求した著作です。
 近年のアメリカでのさまざまな文化的潮流の中にあるDNAの過剰な露出を、
筆者たちは「遺伝子本質主義」と呼びます。たとえば、「家族の絆」は「育ち」
ではなく遺伝子的連続によるものだという観念から、裁判所が親権をめぐる判決
を下すようになっているということ、あるいは、出生直後に養子に出され、生み
の親を知らない子どもが自分の生物学的両親を捜すのを支援する組織が数多く生
まれてきていること、など。
 あるいは、ガンや高血圧の原因となる遺伝子情報の所在が発見されるようにな
っていると同時に、その情報に対してはプライバシー権が及ばず、個人情報が生
命保険会社などに流通していること(もちろん、保険料の引き上げのために使わ
れる)、「犯罪遺伝子」によって罪を問われない代わりに矯正の望みもないとさ
れて、一生施設に閉じ込められたり、「悪い」遺伝子を未来に残さないようにす
るために避妊手術を受けさせられたり。
 ゲノム研究は、さまざまな不幸を取り除く可能性を持った研究であると同時に、
かつての優生学が持っていたような「選別の論理」(優生学は、「優れたものを
生かす」という意味ですが、実際は「劣ったものを排除する」ために使われまし
た)として働くという側面を実際に持っています。筆者たちは終章で「多くの科
学者は以上述べた可能性に気がついている」と言っていますが、もちろん、科学
者でない一般のわたしたちこそ、生殖の国家管理や社会問題を個人の遺伝子の問
題に還元するような傾向について、きちんとした知識と対応を考えておく必要が
あるといえるでしょう。

(1997/03/10)



This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)