Myriel

 ジャンヌ・ダルク


【 書  名 】ジャンヌ・ダルク −超異端の聖女−
【 著 者 】竹下節子
【出 版 社】講談社現代新書
【発 行 年】1997年1月20日
【 価 格 】本体660円+税
【  ISBN  】4-06-149337-X
【KeyWords】歴史、女性性、トランスジェンダー、聖なるもの

【 内 容 】

 序章  ジャンヌ・ダルクとはだれか
 第1章 ジャンヌ・ダルクの先駆者たち −カリスマと聖女
 第2章 神の「声」を聞いた少女
 第3章 中世の政治と宗教 −少女戦士はいかにして誕生したか
 第4章 戦場の乙女
 第5章 ジャンヌの最期
 エピローグ

【コメント】
 ジャンヌ・ダルクはもちろん「フランス」の救国のヒロインであり、現在でも
フランス人たちの心をとらえて離さない存在である。しかし同時に、彼女はカソ
リックの「聖女」でもある。百年戦争中に「魔女」として火刑に処された彼女が、
なぜ教会にその聖性を認められるようになったのだろうか。
 著者が注目するのは、中世ヨーロッパにおいて「正統‐異端」という秩序に収
まらない「超‐異端」(パラ・エレジー)の系譜である。もともとこの言葉はフ
ランスの歴史学者ジャック・ル‐ゴフが提起した概念で、中世ヨーロッパにおい
ては、「正統‐異端」という区分け以前のカオスの力としての「超‐異端」の広
がりが存在することを指摘したものであった。つまり、その力はいまだ正統にも
異端にも位置づけられていない。正統ではないという意味では教会から敵視され
うるものでもあるが、ある場合には位置づけは逆転して「超‐正統」なものにも
なりうる。
 ジャンヌ・ダルクだけではなく、中世にはそのほかにも「超‐異端」の女性た
ちがいた。「聖女」のタイトルを与えられた何人もの女性、あるいはベギン会の
「異端」とされた修道女‥‥。「超‐異端」に女性たちが多い理由を著者は次の
ように語っている。「超異端のエネルギーを歴史に刻むほどの人間であっても、
もし男であった場合は、同時代からただちにレッテルづけをされて事実上超異端
の『超』を外されてしまうケースが多い」(pp.38-39)。しかし、女性は秩序に
組み入れられない道がある。結婚を拒否し、なおかつ修道院にも閉じこめられな
いために、世俗のまま「処女誓願」をしたシエナのカタリナは、その境界的な位
置ゆえに、世間の非難もうけたが崇拝されることにもなった。
 ジャンヌにとっては、それが「男装」であったといえる。処女ジャンヌが「男
装」をしたことによって、彼女は女として性的存在であることをやめ、聖的存在
になったのだと著者は指摘する。しかしそれは同時に、ある境界を越え出たとき
には未知なものへのおそれにつながり、「魔女」として異端のレッテルを貼られ
ることにもなったと言える。「男装」が持つ両義的な意味を、当時のキリスト教
的世界の心性とからめながら説いていく著者の議論は、わかりやすく、かつ興味
深いものがある。

(1997/05/20)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)