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 近代日本のジェンダー


【 書  名 】近代日本のジェンダー 〜現代日本の思想的課題を問う
【 著 者 】大越愛子
【出 版 社】三一書房
【発 行 年】1997年5月31日
【 価 格 】本体1900円+税
【  ISBN  】4-380-97238-0
【KeyWords】歴史 家族 セクシュアリティ 天皇制

【 内 容 】

 第一章 ジェンダー・イデオロギーの形成
  1 ジェンダー・ショック
  2 男性知識人たちの夫婦同権論争
  3 脱亜入欧と女子教育
  4 国粋主義と女子教育
  5 「女の力」幻想の形成
  6 性的奉仕のイデオロギー

 第二章 ジェンダー・イデオロギーとの葛藤とその内面化
  1 運動の中の諸矛盾との闘い
  2 『青鞜』における諸論争
  3 母性主義フェミニズムへ

 第三章 日本近代のジェンダーの政治学
  1 国家原理とジェンダー
  2 国家神道とジェンダー
  3 家族国家という国体戦略
  4 戦争とジェンダー
  5 日本主義とジェンダー
  6 コロニアリズムとジェンダー

 むすびにかえて

【コメント】
 国民国家の形成が決して平和裡に行なわれたものでないことは、近年の歴史研
究が明らかにしてきたことである。それは、「ヨーロッパ」という固有の地理的
・歴史的・社会的環境を舞台に、外的には国家間の抗争を通じて、また内的には
民族的・言語的少数派の排除・抑圧を通じて行なわれた、暴力的な「建設」であ
った。その内的編成の過程で、「ジェンダー」という変数がきわめて重要な役割
を果たしたということも、欧米のフェミニスト歴史学の流れの中で指摘されてき
たことだ。
 おそらく、近代日本の国家編成にあたっても同種のプロセスが存在したであろ
う。それは、外的には欧米列強のアジア侵略に抗しつつ、他のアジア諸地域との
差異を強調するというプロセスであり、内的には地域的な経済的・社会的・文化
的集団を「ナショナル」なものへと再編するというプロセスであったと考えられ
る。
 では、「ジェンダー」という変数についてはどうであっただろうか。大越が本
書で分析の対象とするのは、近代日本の国民国家形成に当たって、「ジェンダー」
という変数がいかなる形で貢献させられたのかを明らかにすることである。
 江戸末期から明治初期にかけて欧米の文化と接触する中で、欧米のジェンダー
規範(当然ながらそれは、欧米の国民国家形成において重要な役割を果たしてき
たものである)が流入してくる中、伝統的なジェンダー規範とのはざまで、どの
ような近代日本独自のジェンダー規範が作り上げられてきたのかが問われること
になる。
 大越によればそれは、「家制度の二重性」と呼べるものによって実現される。
すなわち、明治民法を基軸とする外形的な男性家長中心の「家」と、法的には全
く無権利ではあるが、隠された中心としての母性的存在が支える「家」との二重
性の問題だ(第三章では、この「男性中心主義」と「母性原理」という二重性を
象徴的に表現したのが戦前の天皇制であったことが指摘されている)。彼女は、
強圧的に見える「家制度」への反発から起こった日本のフェミニズムの「第一の
波」の終着点が戦時体制への協力であったのは、、近代日本の国家形成の装置と
しての「家」が、欧米型の男性主導の対関係を基盤にした「近代家族」とはズレ
たものであり、不安定な家長の座を支えているのが「母」としての女性の存在で
あることに当の女性たちが気づき、国家における女性の存在価値をアピールしよ
うとしたことの、ある意味では必然的な結果にほかならないと主張する。
 こうした議論は、一つには、日本の女性が、戦争の一方的な犠牲者であったと
いうわけではなく、戦争に自発的に協力し、加害者の側に立つ存在でもあったこ
とを改めて問い直すという近年の近代女性史研究の流れとも一致するものである。
またそれと同時に、「フェミニズム」というものが大文字の存在ではなく、歴史
的・社会的に固有な存在であることを改めて明らかにしたという点でも重要な意
味を持つだろう。もちろんこれは、「第二の波」の歴史的文脈をわたしたちが問
う場合にも言えることにほかならない。

(1997/08/13)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)