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 岩波講座・現代の法11 ジェンダーと法


【 書  名 】岩波講座・現代の法11 ジェンダーと法
【 著 者 】辻村みよ子ほか
【出 版 社】岩波書店
【発 行 年】1997年8月21日
【 価 格 】本体3400円+税
【  ISBN  】4-00-010771-2
【KeyWords】法律 人権

【 内 容 】

 はじめに              ‥‥‥‥‥‥ 高橋和之

 I フェミニズムと法理論

 性支配の法的構造と歴史展開     ‥‥‥‥‥‥ 辻村みよ子
 ジェンダーとフェミニスト法理論   ‥‥‥‥‥‥ 紙谷雅子
 性差別と平等原則          ‥‥‥‥‥‥ 横田耕一

 II 性に基づく役割分担と性支配

 労働の価値評価とジェンダー支配の法構造 ‥‥‥‥ 朝倉むつ子
 家族法と性別役割分業        ‥‥‥‥‥‥ 二宮周平
 企業と性支配            ‥‥‥‥‥‥ 奥山明良

 III セクシュアリティーの再構成

 ポルノグラフィーと性支配      ‥‥‥‥‥‥ 高橋和之
 女性の身体と自己決定――性業労働をめぐって ‥‥ 若尾典子
 ドメスティック・バイオレンスと性支配  ‥‥‥‥ 戒能民江
 国際法から見た日本軍性奴隷問題   ‥‥‥‥‥‥ 戸塚悦郎

【コメント】

 日本におけるフェミニズムの議論は、これまで、社会学および文学・思想の面
にかなり限定されてきたきらいがある。おそらく、(アカデミックな意味での)
法律学の分野は、人文・社会諸科学の領域では、もっとも「ジェンダー」や「フ
ェミニズム」ということばと縁遠かったであろう。
 その意味で、本書が編まれたのはきわめて貴重であったといえる。「岩波講座
・現代の法」の1冊としての本書は、法思想や人権といった法理論全般に関わる
ことがらから、労働法・家族法・民法・刑法・国際法など個別の多彩な分野にわ
たって、「ジェンダーと法」の問題を網羅しているものである。
 特に、冒頭の辻村論文は、主に社会学を中心とする日本のフェミニズムの隆盛
を一定評価しつつも、「権力論すなわち国家権力や政治的・社会的権力の構造的
把握の視点が不足していたのではないか」、また、家父長制や家族などの論点に
おいて、「法学や法史学など隣接諸科学の成果をとりあれて共通言語で議論する
努力を必ずしも十分にしてこなかったのではないか」という批判を同時に加えて
いる点で注目すべきところがある。それが、たとえば、『ワードマップ フェミ
ニズム』(新曜社刊)の「リベラル・フェミニズム」の項目でも指摘されている
ような、「人権」や「平等」をかちとってきたリベラル・フェミニズムへの過小
評価にもつながっていることは、おそらく事実であろう。
 もちろん、辻村のこうした批判に対して、たとえば戦前・戦後の「近代家族」
の連続性の強調は、日本国憲法および現行民法の導入による制度面における家族
の変動(および男女関係の変容)のみに力点をおく従来の社会科学の「ジェンダ
ー論」の欠陥に対する反動である、あるいは、「家父長制」という術語を旧来の
社会科学の用法と切れたところで使用してきたのは、戦後の法的・制度的改革に
よって「家父長制は廃絶された」として、女性と男性の間に存在する社会的権力
関係(=フェミニスト社会科学のいうところの「家父長制」)に目を向けること
を(主に男性の)社会科学者が拒んできた態度に対する批判であった、とか、国
家権力についてのフェミニスト分析が欠けているという指摘に対して、それはむ
しろ法学(特に憲法学)や政治学の研究分野であり、その分野で日本社会につい
ての実証研究が進んでいないのは、社会学の責任であるというよりはむしろ、内
部でのフェミニスト・アプローチ導入の試みを許さない法学・政治学界の男性支
配の構造の問題であるのではないか、などという反論を加えるのは容易である。
(でき得れば辻村論文にはこうした「文脈」への配慮がもっとほしかった。)
 ただし、彼女の批判を単なる批判のための批判としてではなく、社会科学の刷
新への努力目標の提示という観点から読むならば、彼女の指摘はきわめて正当な
ものであると言わざるを得ない。実際、たとえば家父長制の構造分析を行なった
イギリスの社会学者の著書の中では、イングランドで女性の側からの申し立てに
よる離婚がどのような歴史的過程を経て認められるに至ったかという記述が、国
家権力を扱った章で出てきたりもする(eg. Sylvia Walby, Theorizing Patriarchy)
のに対して、日本の社会学の文献で、きちんと憲法14条や24条、あるいは新民法
の意味を論じたものは皆無に近いように思う。(もっとも、たとえば憲法14条の
意味を、特に性別に関して議論した憲法論もそれほど多くないのではないかとも
思うが。)本書が、狭い意味での法律学専攻者だけでなく、広く一般に読まれて
ほしいと願う理由はこれである。

(1997/10/08)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)