Myriel

 紅一点論


【 書  名 】紅一点論
【 著 者 】斎藤美奈子
【出 版 社】ビレッジセンター出版局
【発 行 年】1998年7月18日
【 価 格 】1700円+税
【  ISBN  】4-89436-113-2
【KeyWords】ポピュラー文化 子ども文化 メディア

【 内 容 】

 はじめに――世界は「たくさんの男性と少しの女性」でできている

 紅一点の国
  第一章 アニメの国
  第二章 魔法少女と紅の戦士
  第三章 伝記の国
  第四章 紅一点の元祖ジャンヌ・ダルク

 紅の勇者
  第一章 少女戦士への道――『リボンの騎士』『ハニー』『セーラームーン』
  第二章 組織の力学――『ヤマト』『ガンダム』『エヴァンゲリオン』
  第三章 救国の少女――『コナン』『ナウシカ』『もののけ姫』
  第四章 紅の勇者の三〇年

 紅の偉人
  第一章 天使の虚偽――フローレンス・ナイチンゲール
  第二章 科学者の恋――マリー・スクロドフスカ・キュリー
  第三章 異能の人――ヘレン・ケラー
  第四章 紅の偉人の五〇年

 あとがき――「萬緑叢中紅一点」を超えて

【コメント】

 議会や企業経営者など、この社会の上層部はすべからく「たくさんの男性と少
しの女性」で構成されていて、しかもそれをわたしたちは、誰に教わるともな
く、テレビアニメや伝記を読んでいて自分で知るのだ、と「はじめに」の部分で
書かれています。『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊なら友里アンヌ、『宇宙
戦艦ヤマト』なら森雪、女の子が座れる椅子は一つしかない――それが「紅一点
現象」なのだと。
 紅一点現象とは、一つには「数」の問題であるけれど、でも「質」の問題でも
あります。なぜなら、彼女は「ひとりだけ特別に選ばれた女性」で、しかも、彼
女の仕事・役目はごく限られたものだったから。闘いで傷ついた男の子をケアし
たり、通信係=電話番をしたり、はたまた非公式には「お色気担当」であった
り。ただしこれは、「男の子の国」の物語の話だけれど。(日本ではアニメー
ションもマンガも、「男の子向け」「女の子向け」に高度にジェンダー化されて
おり、特に銘打っていない場合には暗黙裡に「男の子向け」である場合が多
い。)
 じゃあ、「女の子の国」では?というと、「恋愛立国」である「女の子の国」
でのヒロインは、常に「魔法少女」。「男の子の国」がわけがわからなくともい
ちおう「科学」で動いているとするなら、こっちはそもそもリクツがつかない
「魔法」が作動原理なのだ。(そしてその「魔法」のうちでも最大にワケがわか
らんのが「愛」とかいうものである。)
 斎藤図式によれば、「魔法少女」は「父親から見た理想の娘」で、「男の子の
国」の紅一点ヒロインである「紅の戦士」は「上司から見た理想のOL」である
という‥‥いささかミもフタもないが。しかし、幼い頃から繰り返しこのパター
ンで攻められたら、どんなふうに女の子も男の子も感じるだろう。

 ただ、『美少女戦士セーラームーン』にしても『新世紀エヴァンゲリオン』
『機動戦艦ナデシコ』にしても、明らかに従来の枠組みは崩れつつある。『セー
ラームーン』各シリーズは、「女の子の国」の作動原理をそのままに、「男の子
の国」のチーム性などの要素を付加したハイブリッドな構造を持つし、『エ
ヴァ』にせよ『ナデシコ』にせよ、「男の子の国」のお話なのに、女性が指揮す
る女性主体の実戦部隊を有するという意味ではすでに「紅一点」を脱している。
ただしそのとたんに、『ナデシコ』はナンセンスの方向へ走り出すし、『エ
ヴァ』ではそもそも「物語」自体が崩壊してしまったけれど。これはある意味
で、従来のアニメーションの構成原理の危機を意味しているのかも知れない。

 『紅一点論』がユニークなのは、アニメだけでなく「伝記もの」を視野に含ん
でいるところだ。伝記の世界でも、出てくる「偉人」はたいてい男、女性は、紫
式部とかマリー・キュリー、ヘレン・ケラーなどごく少数。しかも、取り扱われ
かたにたいへんな偏りがあるという。これが第3部の「紅の偉人」の主題にな
る。「科学が好きな女の子に育てたい」とか思ってマリー・キュリーの伝記を子
どもに買って読ませても、マリー・スクロドフスカとピエール・キュリーのラ
ブ・ロマンスを中心に読まされることになるかも知れないのだ。

 ところで、最近ようやくアニメを見始めたわたしとしては、いくつか引っかか
ることが。斎藤の前著「紅の戦士」(『ハイパーヴォイス』、ジャストシステム、
に収録)に関しては「ハチャメチャな女の子二人組が活躍する『ダーティペア』
は?」という疑問を持ったものだが、今回は、「男の子向けアニメなのに魔法少
女が活躍し、しかもその行動原理は食欲と物欲(笑)という『スレイヤーズ』シ
リーズは?」という疑問を持った。もちろん斎藤図式で説明不能ではないのだが
(『セーラームーン』と同様、ハイブリッドな構造を持つと言える)、あれだけ
ヒットした作品に言及がなされていないのがいささか気になるところではある。

(1998/09/23)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)