Myriel

 新・シングルライフ


【 書  名 】新・シングルライフ
【 著 者 】海老坂武
【出 版 社】集英社・集英社新書
【発 行 年】2000年5月22日
【 価 格 】本体660円+税
【  ISBN  】4-08-720032-9
【KeyWords】シングル、老い、孤独

【 内 容 】

 第一部 シングルライフの擁護
  §1 私自身のこと
  §2 シングルライフとは?
  §3 <独ハラ>とその撃退法
 〔意地悪インタビュー 1〕 ――結婚の偉大さについて――

 第二部 シングルライフの哲学
     前口上
  §1 〈自由よ、私はお前の名を書く〉
  §2 生活の自主管理――お金、時間、健康、性欲
  §3 <老年>をどう考えるか
  §4 孤独との付き合い
  §5 人生を正しく享受すること
 〔意地悪インタビュー 2〕 ――シングルライフの哲学の欠陥をつく――
 
 第三部 文明の流れの中で
     前口上
  §1 日本における家族の変貌
  §2 何でもありの二十一世紀
  §3 個人として生きること

【コメント】

 海老坂武はわたしが尊敬する数少ない男性研究者の一人だ。いや、「研究」や
「業績」を尊敬している研究者ならたくさんいる。海老坂はむしろ、私生活につ
いてのわたしの数少ない(男性の)ロールモデルのような存在なのだ。
 海老坂のフランス文学者としての業績には、実は触れたことがほとんどない。
翻訳を二、三読んだことはあるだけだ。「教育者」としての彼も知らない。厳し
いことで有名だったので敬遠した、というわけではない。念のため。
 しかし、彼の前著『シングルライフ――女と男の解放学』(中央公論社、1986
年)には衝撃を受けた。自分の「生き方」についての根幹に問いを突きつけられ
たようなものだったからだ。あげくの果てにわたしはこの本をゼミの課題書に指
定してしまい、みんなで衝撃を共有しあい、「もてる男の“シングルライフ”だ
よねえ」とため息をつきあった。若気の至りというやつである。
 だが、孤独と戦い、自己の生を自ら管理し、「自由」と引き替えにそれらの艱
難辛苦を引き受ける彼のいさぎよい(ように見える)姿は、十分に魅力的だっ
た。ある意味でそれは、当時自分が取り結んでいた異性関係と響きあって、わた
しの人生に「革命」をもたらしたといっても過言ではないだろう。

 14年の年月を経て再度彼が問う「シングルライフ論」は、前著執筆当時50歳
だった海老坂の事情と、65歳を迎えた現在の彼の事情の差を反映して、より「老
い」と、より「孤独」と、より「人生」と、向きあう様相を深めている。
 海老坂は「日々の生活の自主管理ができなくなったときを老年と呼ぼう」と述
べている(102ページ)。つまり、シングルライフが人生の徹底した自己管理で
あるならば、それが日常レベルで維持できなくなったときには必然的に終焉を迎
える、というわけである。彼の思索は、したがって、この意味での「老年」の以
前をどう生き、この意味での「老年」をどう生きるか、へと向かっていくことに
なる。
 そのあたりは本書を読んでいただくことにしよう。ここでは、こうした海老坂
個人の状況の変化――年齢を重ねたということだけではなく、母親の死を看取っ
たとか、東京から関西へと生活環境が変わったとか、そういったこともあるだろ
うし、1980年代後半に何人も彼とそう変わらない年齢のフランス文学者が相次い
で亡くなったということもあるかもしれない――からくる思考の展開や、前著で
は語られなかったことなどを含めて、彼の「シングルライフ論」がより深みを増
したということを確認しておけば十分だろう。
 ただ、どうしても前著のような論の幅の広さは、今回のものにはない。ぜひ前
著と合わせて読まれることを奨めたい。

 海老坂のような「生涯一シングル」はわたしの理想とするところなのだが、本
書を読んでさらにそのあこがれは深まった。だがそれを保てるのか、最近少し不
安ではある。


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)