Myriel

 モア・リポートの20年


【 書  名 】モア・リポートの20年――女たちの性をみつめて
【 著 者 】小形桜子
【出 版 社】集英社(集英社新書)
【発 行 年】2001年1月22日
【 価 格 】720円+税
【  ISBN  】4-08-720075-2
【KeyWords】セクシュアリティ、結婚、恋愛、売買春

【 内 容 】

 はじめに
 第一章 〈モア・リポート〉のあゆみ
 第二章 一二人の女たちの性と生
 第三章 女の性――何が変わった?
 第四章 心地よい自分でいるために
 〈モア・リポート99〉データ編

【コメント】

 1980年モア・リポートの第1回は実施された。それから7年後の87年に第2回
の調査(〈モア・リポートNOW〉)、そして21年後の今年、1998年に実施された
三回目の調査の結果がまとめられた(〈モア・リポート99〉)。
 三回の調査はそれぞれに時代ごとの“女の性”を映し出してきた。だが、その
映し方はかなり異なる。
 まず、第1回目の調査では、まだ社会全体における女性の性に対する抑圧が強
かったため、比較的性的な関心が高く、女性と男性の関係に敏感で、自分の性と
向き合う態度の強い層が回答していたのではないか、というようなことを筆者は
述べている。それは「オーガズムを得られる」という回答が、第1回の調査のと
きが一番割合的に多いというところなどに表われているという。(オーガズムを
「必ず得られる」「たいてい得られる」と回答したのは、〈モア・リポート〉で
46%、〈モア・リポートNOW〉で35.6%、〈モア・リポート99〉で38.7%。)
 より広い階層から、今回の調査は得られている、と見てもよいだろう。もちろ
んそれは、比較の問題ではあるが。
 そして、その違いを念頭に置いた上で、この20年あまりの間に、女の性は確実
に変わった、と著者はいう。何が変わったのか?

 「二〇年前の〈モア・リポート〉は、女性誌『モア』の読者アンケートという
形式で行われた、日本で初めての、女性の『性の現場』からの報告であった。
(中略)そして、そのあふれるほどの言葉で、『性』は自分の『生』であり、自
己確認のための創造的な磁場であり、人間同士の最も親密なコミュニケーション
の方法であることを表明したのである。」

 「〈モア・リポート99〉には、三三八七人が参加している。(中略)アンケー
トの中で、女性たちは饒舌だった。が、二〇年前の女性たちのそれとは異質のも
のだった。同じように『性』を語っていながら、ある女性たちは、自分の性を、
単なる体験やできごととして語っている。
 パートナーとの間で、可能な限りお互いを開きあい同化したいと願う『性』の
根源的なエネルギーや力を、その体験やできごとから感じとることは難しかっ
た。むしろ、『性』における親密性を回避しているようにさえ感じられる。」
(本書3〜4頁)

 性とは、二人の人間(もちろん異性である必要はない)の間での、「可能な限
りお互いを開きあい同化したいと願う『性』の根源的なエネルギーや力」でなけ
ればならない、というのは、ある種本質主義的で、あまりにもセックスをロマン
化しているもの、とは言えるだろう。しかし、筆者が言うように、確かに何か以
前とは異なるものが回答の中で露出してきたということは言えるのかもしれな
い。
 もちろんそれは、複数のパートナーを同時に持つことがかなり広く見られる現
象になってきたこととか、オーガズムについての情報が豊富になったために期待
の度合いが高まり、それゆえに逆に「失望」や「焦燥」をも多く生産していると
いうこともあるだろう。
 後者については、筆者は「オーガズムを得るのは簡単ではない」と指摘し、
パートナーを変えたり「経験豊富」で「Hがうまい」男性とセックスすることで
オーガズムが得られるのではないかと考える女性たちに、警鐘を発してもいる。
 しかし、筆者が最後に持ってきたのは、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レ
イのように「Do you love me?」と問い続ける女性の言葉だ。その「Tさん」の
ような回答について、筆者は、「彼女たちには、自分にとって本当は何が心地よ
くて、何が不快なのか、何が欲しくて、何が不要なのか、という実感が希薄」
(本書233頁)であると指摘し、その中に「愛されたい」と願いつつ相手と近づ
くことを恐れる(ヤマアラシのジレンマ?)ような傾向の強まりを感じ取ってい
る。
 この筆者の評価が正しいかどうかはわからない。しかし、第1回の〈モア・リ
ポート〉の回答の中に感じ取れた、「セックスはコミュニケーションで、相手と
の距離をできるだけ近づけようとする中によろこびがある」というような感覚と
は明確に異なる何かが、存在するのかも知れない。「好きな人とセックスできな
い」「どうでもいい人と寝ちゃう、遊びのほうが気楽にHできる」というような
今回の回答は、なるほどそうだと思わせるところがある。

 もちろん、変わらないところだってある。結婚後の夫とのセックスに期待しな
い女性は非常に多い。彼女たちは、「マンネリ」「夫本位」「手抜き」あるいは
「義務」「ボランティア」といった言葉でそれを表現する。そこにあるのは、
セックスにおける妻と夫の間の力関係の問題だ。やはり男性主導、女性は受け入
れる役割、というところが、夫婦間のセックスには存在しているのだろうか。
もっとも、そこから筆者のように経済的な問題へとストレートに結びつけるの
は、いささか飛躍があり過ぎるとも思うが、おそらくさまざまな要因を合わせれ
ば結果的に結論は重なるだろう。

 残念ながら、今回の報告書は分量的には物足りない。(新書版で269ペー
ジ。)紹介された女性の生の声も12人分だ。この点は大いに不満である。しか
し、貴重な声を紹介してくれていることは間違いがない。今後も〈モア・リポー
ト〉は継続されるのだろうかという関心を再び高めてくれた一冊である。

(01/01/26)


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)