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 きょうも料理――お料理番組と主婦 葛藤の歴史


【 書  名 】きょうも料理――お料理番組と主婦 葛藤の歴史
【 著 者 】山尾美香
【出 版 社】原書房
【発 行 年】2004年5月3日
【 価 格 】1800円+税
【  ISBN  】4-562-03763-6
【KeyWords】マスメディア 家事 性役割

【 内 容 】(目次)
【コメント】

 きょうも料理、あすも料理。
 とにかく主婦たるもの、家族の料理をきっちり毎日作らなければいけない。昨
日と同じ献立じゃ子どもが文句たれるし、ダンナはなんだかこないだの検査で中
性脂肪値が高かったからお肉じゃなくて魚にしようか、そうするとごはんとおみ
そ汁と焼き魚ってわけにいかないから、もう一皿おかずがいるなあ、何にしよう、
困った、どうしよう……。
 と、実際に困っていた人が書きあげた修士論文が元になった本がこれ。慣れな
い主婦業、特に食事のしたくに悪戦苦闘しながら、「やめちゃえばいいじゃん!」
と思いつつも包丁は手放せない、それはいったいなんでなんだろう、と疑問に思
った著者の、「鍵は料理番組にあるのではないか」という着想から生まれたもの
だ。
 第1章から第3章までは、テレビの料理番組誕生以前の話。「家庭料理」が主
婦の家族への愛情と結びつけられていくプロセスは戦前期にも存在したことが、
「家庭料理指南」の本や新聞・雑誌記事から明らかにされる。しかしそれは、戦
中と戦後の物資の欠乏と社会的混乱でいったんは白紙に戻る。そう、大正期ぐら
いまでは、いや農村では昭和に入っても、ごはんとみそ汁と香の物だけの食事だ
ってめずらしくはなかったし、おかずだって毎日同じ食材が続くことは当たり前
だったのだ。
 しかし、高度成長あたりからその状況が変わってくる。次第に毎日献立を変え、
レパートリーが増え、さまざまな食材が食卓に上るようになる。いや、「変えな
ければならない」「増やさなければならない」という半強制的な力がそこに働く
のだ。「家庭料理」と「愛情」の結びつきの復活だ。その力となったのが、マス
メディア、特にビジュアルに訴えかけてくるテレビ番組と、テレビ番組の内容と
連動したカラフルなテキストだという。
 「ちゃんちゃかちゃかちゃか、ちゃんちゃんちゃ〜ん」のメロディでおなじみ
のNHK「きょうの料理」は、その嚆矢だ。この番組の開始は1957年11月だから、
もう半世紀近く続いている超ロングラン番組ということになる。
 これらの料理番組は料理に必要な知識や技術を伝授するだけではない。「手作
り料理は主婦の家族に対する愛情表現です」「手数をかけることがおかあさんの
愛情の深さの表現です」という「愛情イデオロギー」を社会的に流布する媒体で
もあった、と筆者は述べている(第4章)。もちろんそれを正面から受けとめた
のは、主婦であり、母親である「女性」たちだ。男性を対象にする料理番組や雑
誌もあったのだが、結局彼らの料理は「趣味」や「楽しみ」の域を出ていない。
「日常」ではないのだ。
 家電製品の普及と共に、家事労働は軽減される――と思いきや、実は家事時間
はまったくこの40年減っていない(1960年と2000年の既婚女性の一日あたりの家
事時間はほぼ同じ)。それは、食事作りをはじめとして、さまざまところにより
手数をかけるようになったからだ。「愛情」は次第にエスカレートしていく傾向
にある。インフレは貨幣価値だけでなく家事労働時間の価値にも起こったのだ。
 「近代家族」独特の情緒性の強調、特に女性への割り当て、性別役割分業イデ
オロギーの流布、これらを率先して行なったのが、NHKという「公共放送」だ
ったということだ。なんということだろう。
 本書はそのなりゆきをていねいに追いながら、家庭料理の「伝統」が戦後に
「捏造」されるプロセスや、最初は栄養が、そして近年は家族の健康維持が、と、
次々と新しい課題が料理をめぐって持ち込まれてくる様子を描いている。しかも
楽しく読め、わかりやすい。家事が苦手、だけど自分がやらないと、という使命
感に燃えている真面目な人に、まずは読んでほしい。


This page written by TAKAHASHI, June (june.takahashi@nifty.ne.jp)