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2010年07月26日

最終回

 最終回、7/26の講義概要です。「まとめ」部分は含んでいません。

(3)近代の工場制度(承前)

○企業内教育とジェンダー・ギャップ

・明治・大正期労働者の教育水準
 工場には学校制度の階梯を上れないものが多く集まる。(上の学校へ行く経済的余裕がない or 学校へ行くより食い扶持を稼げ、という階層規範)。実際、工場労働者の教育水準は低い(1897年の紡績工場の非識字率のデータ)。
 「家のことをするために、朝学校へ行ってもすぐ呼び戻された」「学校へ赤ん坊の弟をおぶっていった」という証言もある(農村出身で工場労働に長年従事していた女性、1920年代生まれ)。赤ん坊が泣いたりすると、そのまま教室にいることはできなかっただろう。就学率=通学率ではないし、通学していても十分学べたわけではなかった。
 1903年の紡績工場の調査でも、まったく教育を受けていない労働者が男性30%、女性は40%、という結果が出ている。1924年の「労働統計実地調査」でも、義務教育を終えた女性工場労働者は3分の2程度。

・このことは社会的にも問題視されていた。
 「教育水準の向上は、一般的なふるまいと労働能率の両方を改善させる」が、「多くの製糸労働者が貧困のために教育を受けていない」。(『信濃毎日新聞』、1913年)
※長野県では佐久地方や諏訪などで製糸業が盛ん。
 学校をまだ卒業しないうちから工場で働く子どももいた。兄弟の教育費捻出のために、学齢期の女の子が年季奉公に出されることもあった。

・繊維業には若い女性が多く雇用されてきた。
⇔女性の産業教育システムがない
 繊維業では、ほとんどの新入り工は、経験のある労働者について仕事を学ぶ。(場合によっては、姉や母親がその役割を果たす。)会社が訓練制度を整えていることはきわめてまれ。
 東洋紡の職業訓練プログラムでも、職業学校は主に男性技術職向けのもので、女性の場合対象となるのは、事務職か看護師に限られていた(同社社史より)。
 郡是製糸・波多野鶴吉社長:「良き糸は、よき工女が作るものなり。故に精良なる糸を製出せんとする点より考ふるも工女の教育は大切なりと思ふ。」(グンゼ社史より)
 ただし、こうした大企業以外では、企業内訓練制度も整備されていない。

○生活のための教育

・ところが、女性労働者に関しては、職業に必要な技能よりも重視されてきたものがある。
 それが、寄宿舎を基盤とする生活の場での「教養教育」である。(8割以上で実施。)
 1)「読み書きそろばん」的な基礎的リテラシー ← 義務教育の代替
 2)礼儀作法、裁縫、生け花など ← いわゆる「花嫁教育」
 若い未婚女性が生活する場である寄宿舎では、舎監による生活の管理とともに、「家政」のための知識/技術の伝授を行おうとした。12時間工場で働いて、さらに2時間こうした教育の時間があることも。

・目的
 基本は、良質の労働力が持つべき規律の確立。そのほか、「風紀紊乱」を防ぐため等(社会の側からの要請でもある)。
 ただし、出身階層である農家や現在所属する労働者階級の女性の生活と密着した内容のものが、教育内容として与えられていたかどうかは不明。

☆結局、「無学だがそれゆえに従順で、辛抱強い」という労働者観から出発して、経営者たちは、「日本人女性としてふさわしい」と彼らが考える教養や行動様式を、女性労働者に与えようと努めたのである。
 だがそれは経営者層が属している階層のジェンダー規範に裏打ちされたものであった。職業上の訓練ではなく、中産階級的な「家庭」の中で必要とされる教養を与えることで、女性の仕事を女性のライフサイクルの中でとらえるという20世紀の労働市場に特徴的な視点が、この段階ですでに制度化されていたことに注目すべきだろう。

○参考文献

・ジャネット・ハンター、『日本の工業化と女性労働』、阿部武司・谷本雅之監訳、有斐閣、2008年。

投稿者 june : 2010年07月26日 17:32