« 現代政治と女性政策(堀江孝司) | メイン | 「少女」の社会史(今田絵里香) »

2007年03月09日

軍需産業と女性労働(佐藤千登勢)

【 書 名 】軍需産業と女性労働
      ――第二次世界大戦下の日米比較軍需産業と女性労働
【 著 者 】佐藤千登勢
【出 版 社】彩流社
【発 行 年】2003年
【 価 格 】5250円(税込み)
【 ISBN 】4882028018
【KeyWords】労働、性別職務分離、大量生産方式、製造業

【 内 容 】(目次)

序章
 本書の視点
 比較史の手法
 本書の構成

第一部 第二次世界大戦期の女性労働

第一章 総動員体制の形成と女性労働
 第一節 労務動員政策の形成と女性労働
 第二節 女性の国民登録
 第三節 女性の労働徴用をめぐる議論
 第四節 女性の労務動員のゆくえ
 結論

第二部 第二次世界大戦期の航空機産業と女性労働

第二章 航空機産業の発展と女性の雇用
 第一節 航空機産業の発展と労働力
 第二節 航空機産業への女性の就労
 結論

第三章 航空機産業における「女性の仕事」の創出
      ──言説の形成と生産方式の転換
 第一節 身体的な差異への着目──戦時期の労働科学とジェンダー
 第二節 言説の形成──「女性に適した」航空機の仕事
 第三節 航空機工場における生産方式の転換と女性労働
 第四節 労働過程の細分化と「女性の仕事」の創出
 結論

第三部 第二次世界大戦期の航空機産業における労務管理政策と女性労働者

第四章 航空機産業における女性の賃金と職業訓練
 第一節 賃金
 第二節 職業訓練
 結論

第五章 航空機産業における「母性保護」と労務管理
 第一節 労働保護法の緩和──「母性保護」の形骸化
 第二節 女性労働者の管理──カウンセリング・プログラムと生活指導
 第三節 女性労働者と育児──託児所の設立
 結論

第四部 戦後への継続性

第六章 戦後への視角──「女性の仕事」の継続性
 第一節 平時への転換と女性労働者
 第二節 航空機産業のゆくえと「女性の仕事」の継続性
 第三節 戦後の労働政策と労務管理における継続性
 結論

終章 類似点と相異点

【コメント】

 この本を研究会で読んだ後、参加者の一人がつぶやいた。「一国だけでも大変なのに。」日米の比較史というアプローチには、それだけの労力が必要とされたわけだ。
 日本とアメリカ。共に、ある種の「特殊性」が主張されることが多い。アメリカはヨーロッパと比較した際の「特殊」であろうし、日本の場合には、欧米をひっくるめて対比して「特殊」なのだろう。
 だが筆者の比較史のアプローチは、この両国における共通性を、しかも、かたや戦勝国、かたや敗戦国という立場の違いを超えた同質性を、明らかにする。主にそれは、「女性の仕事」の特質についての言説に関するものであった。「女性は体力がない」「手先が器用で忍耐強い」。そういった、現在でも流用される言説だ。おそらくこれ以前にもあったことは間違いない。
 そうした言説は、大戦以前は男性の職場であった航空機産業の労働現場へ女性を配置していくプロセスでも用いられた。熟練工だった男性労働者が徴兵でいなくなった空隙を、女性が埋めなくてはならなかったからだ。そのためには、まず女性が働くことができるように労働過程を再編しなければならなかったが、それと共に女性たちにそこで働くよう説得し、さらに彼女たちの周囲にも働きかけなければならなかった。本書の記述は、こうした具体的な場面においてさまざまな言説が形成され、用いられた事例を、豊富に取り上げ、整理して提示してくれる。
 もちろん、両国で航空機産業はまったく正反対の結果を出した。日本はついにアメリカの生産性も生産量も上回ることができなかったのである。それがなぜか、という点についても、本書は言及しており、さらに女性労働がどのように労働過程に包摂されていったのか、さらには彼女たちをどう企業が処遇しようとしていたかまでを検討している。
 大戦中に航空機産業で作られた「女性の仕事」、およびそのイメージ――力は必要としないが、器用さ・繊細さや注意深さ、忍耐力を求められる反復作業、こうした仕事に女性は向いているというイメージ――が、戦後の製造業における女性労働の原型をなしたことも著者は指摘している。つまり、戦後の女性労働のレジームの基礎が、大戦期の航空機産業でつくられたということだ。
 検討は1950年代までで終わっており、必ずしも戦後の女性労働を通しての話ではないが、本書はわたしたちが第二次世界大戦後の各国の女性労働のあり方の本質を理解する上での基礎を提供してくれているといえるだろう。記述もよく整理されており、文章も平易で読みやすく、記述の量のわりには理解するのに困難を伴わない。これもまた評価されるべきであろう。

投稿者 june : 2007年03月09日 13:24